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旭川家庭裁判所 昭和44年(少)65号 決定 1969年8月22日

少年 G・Y(昭二五・一二・二九生)

主文

少年を満二〇歳に達するまで中等少年院に戻して収容する。

ぐ犯保護事件については、少年を保護処分に付さない。

理由

第一、戻し収容申請事件について

本件申請の要旨は、「少年は窃盗、私文書偽造、同行使、詐欺保護事件について、当裁判所において昭和四二年六月二三日中等少年院送致の決定を受け、帯広少年院に収容されて、矯正教育を受け、同院を昭和四三年八月一九日仮退院し、以後旭川保護観察所の保護観察を受けているものであるが、少年は法定および特別遵守事項を守らず、同人の要保護性もまだ改善されておらず、加えて、保護者も少年の行状に手をあましている状態で、その監督に期待することは困難と思料され、このまま推移するときは更に非行を繰り返すおそれも十分ある。そこで、少年の更生を期するためには、この際少年に対し再び矯正教育を施して改善を図り、予後の帰住先の環境を調整することが必要であるので、犯罪者予防更正法四三条一項により、少年院に戻し収容すべき旨の決定を求める。」というにある。

そこで審理するに、当審判廷における少年の陳述、旭川保護観察所保護観察官志賀英夫の面前における、少年ならびにその保護者であるG・T・G・S子の供述を録取した質問調書、当裁判所調査官本間良信作成の調査報告書(少年ならびにG・T・G・S子の供述記載)を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  少年は昭和四二年六月二三日、当裁判所において、窃盗、私文書偽造、同行使、詐欺保護事件について中等少年院送致の決定を受け、帯広少年院に収容されて矯正教育を受け、昭和四三年八月一九日同院を仮退院することを許された。その際、少年は、同少年院長から、法定遵守事項の外、仮退院の期間中特別に遵守すべき事項として、(i)仕事を無断でやめないこと、(ii)夜遊びしないこと、(iii)ダンスホールへ出入りしないこと、(iv)親許に住むこと等を指示され、旭川の親許に帰住後、旭川保護観察所でも、同旨の指示を受けた。

(二)  少年は、現住居の親許に帰住後、昭和四三年一〇月頃約一〇日間○○石けんで働き、同所をずる休みとの疑いで解雇され、その後昭和四四年四月一日から同年五月二一日まで、北海道庁水産部試験船に機械係見習いとして乗船勤務したが、同船していた実父G・Kと喧嘩して下船し、更に昭和四四年六月二日から三日間、ダンスホールで知合つた人の紹介で○○建材で働いたが、ボンド吸引を知られたため、気まずくなり退めてしまつた。

(三)  以上の期間の外、少年は、無為徒食の生活を続け、旭川に帰住後間もなく、親から小遣いを貰つては、連日、昼間は映画、パチンコに興し、夜はダンスホールに出入し、昭和四三年九月頃からはボンド遊びを知り、毎週二回位ボンド吸引を行なうようになつた。

(四)  少年は、昭和四四年一月二〇日、突然厭世感にかられ、自宅において、安全カミソリで自己の左手首内側を切り、自殺を図つたが、未遂に終り、同月三一日まで入院、同年三月二〇日まで通院して治癒したが、通院期間中も同人はダンスホールへの出入りや、ボンド遊びを続けていた。

(五)  少年の保護者および担当保護司は、しばしば、ダンスホールの出入りや、ボンド遊びを止めるよう説論し、昭和四四年三月一七日には保護観察官も同人を呼出したうえ、同人に対し、ダンスホールへの出入り、ボンド遊びをしないよう注意した。なお当裁判所も、昭和四四年少第六四・六五号ぐ犯保護事件について、同年三月三日、少年を試験観察に付し、少年に対し、(i)ダンスホールへの出入ならびに夜遊びを慎むこと、(ii)シンナー、ボンド遊びをしないこと等の遵守事項の履行を命じていた。しかし、少年の行動は以前と異ならなかつた(前記乗船中もボンドを吸引していた。)。その為、少年はボンド吸引中を警察官に現認され、補導されたことが約六回もあつた。

(六)  少年は昭和四四年六月一三日、再び厭世感にとらわれ、ハイミナール五二錠を飲んで自殺を図つたが未遂に終り、同日から同年七月二一日まで○○精神病院に、急性ハイミナール中毒、ボンド嗜癖症により入院治療した。

(七)  同月二一日、少年は退院したので、保護観察官は同日、同人に面接し、生活指導を与えた。ところが少年は同日夜、再びダンスホールへ行き、翌二二日はボンドを吸引した。

以上のように、少年は遵守すべき事項(犯罪者予防更生法三四条二項一、二号所定の事項および前記特別遵守事項(i)、(ii)、(iii)所定の事項)を遵守しなかつたものといわねばならない。

ところで、旭川少年鑑別所による昭和四一年七月一三日付および昭和四二年六月二〇日付各鑑別結果通知書によると、少年は知的には準普通域にあるが、思慮浅く、思いつくまま即く行動に出る傾向にあり、情緒不安定で、自己中心的な要求、不満から他人とは非協調的で、社会に不適応な傾向にあつたことが窺われるが、同所による昭和四四年八月二〇日付鑑別結果通知書によると、少年院収容を経た現在でも、少年の前記の如き性格負因は矯正されていず、かえつて性格の偏りが大きくなつていることが窺われる。前記した如き少年の行状も、そのような少年の性格負因に負うところが大きいと推測される。そして、当審判廷におけるG・Tの陳述および前記G・T、G・S子の供述録取書面(質問調書)によると、少年の保護者は、少年の処遇に窮し、少年に対する収容教育を希望していることが認められる。

以上のような少年の行動、性格、環境等諸般の事情からすると、少年を現状のまま放置するときは再び非行に陥るおそれが十分窺える。

そこで、当裁判所調査官本間良信、旭川保護観察所所長鈴木義一、同保護観察官志賀英夫ならびに帯広少年院長木村雅敬の各意見をきき、前記の事情を考慮すると、少年については、既に在宅保護の限界を越えているので、再び少年を少年院に戻して収容し、少年院における矯正教育に期待し、少年の年齢、知能および前記行動に照らし、少年を満二〇歳に達するまで中等少年院に戻して収容するを相当と思料する。

第二、ぐ犯保護事件について

前記の如き少年の行動は少年法三条一項三号イ、ロ、ニ各号所定するところに該当し、しかも、前記の如き少年の性格、環境からすると、少年は将来罪を犯し、または刑罰法令に触れる行為をするおそれは十分あることが認められる。

しかし、少年については上記戻し収容申請事件により戻し収容するので、本件では保護処分に付さない。

第三、結論

よつて、犯罪者予防更生法四三条一項(少年院法一一条三項)、少年審判規則五五条、三七条一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 田中康久)

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